アーツマネジメントの視点から舞台芸術の産業特性を定義する-空席対策を。
マネジメントやマーケティングに携わっている以上、時として忘れてしまうが、自分たちがどのような「商品」を扱っているのか、どのような「産業」に分類されるのかを明確に知っていなければならない。そうでないと、使い古された経験知だけで物事を進めてしまうことになる。経験知はあくまでも経験知でしかなく、過去の成功体験に依拠した一種の作業仮説に過ぎない。未来を創造する作業仮説ではない。産業としての特性や商品としての特性に熟知していることが、マネジメントとマーケティングの科学的な戦略計画を立案できる前提となる。さらには、あつかう「商品」が非物質的生産物であり、そのうえ顧客や社会的なニーズや世代間、あるいは時代によってそれらが大きく変化することが、アーツマネジメントとアーツマーケティングの特徴と困難性をいっそう際立たせることになる。「変化」に柔軟に対応できなければアーツ・マネージャーやアーツ・マーケッターとして時代に取り残されてしまう。その意味では、アーツ・マネージャーやアーツ・マーケッターは、ドラッカーの言う「チェンジ・リーダー」でなければならない。
さて、舞台芸術の産業特性には、主に事業収入を規定する「装置型産業」と事業支出に関連する「労働集約型産業」とサービスの質に関わる「技術集積型産業」という三つの特質がある。これらの特性によって、マネジメントとマーケティングにおける経営戦略の策定はおのずと規定される。
「装置型産業」というのは、言うまでもなく劇場・ホールという「装置」を前提として成立しているということである。その前提は少ない観客であろうと満席の観客席であろうと、それに費やされる経費は不変である、という特質を持っている。したがって、固定費の高止まり傾向があるのもこの産業の特性である。
観客が少ないから照明に費やされる電気代を節約するとか、出演者を少なくするとか、40分かかる協奏曲を30分に圧縮するとかの操作はできない。航空会社も装置型産業であるが、乗客が少ないからいつもより低空を飛ぶとか、キャビンアテンダントの数を削減するとかは当然だができない。また、当然だが、空いている席をストックできない。つまり、客席は、その日その時にしか価値を持っておらず、空席のままではその席は経済的な絶対損失となってしまう。ハコを借りて公演をするという日本に特殊的な事情を考えてみてほしい。
先述の400人キャパシティの劇場の一日の借料が40万円だとすると、空席は入場料+一席あたりの借料1000円が絶対的な損失となる。空席があるということは、それだけの経済的損失を被っているということを意味する。空席のある公演は、幕が上がるたびにあらかじめ見込んでいる収入を失っているのだ。
「装置型産業」というのは、言うまでもなく劇場・ホールという「装置」を前提として成立しているということである。その前提は少ない観客であろうと満席の観客席であろうと、それに費やされる経費は不変である、という特質を持っている。したがって、固定費の高止まり傾向があるのもこの産業の特性である。
観客が少ないから照明に費やされる電気代を節約するとか、出演者を少なくするとか、40分かかる協奏曲を30分に圧縮するとかの操作はできない。航空会社も装置型産業であるが、乗客が少ないからいつもより低空を飛ぶとか、キャビンアテンダントの数を削減するとかは当然だができない。また、当然だが、空いている席をストックできない。つまり、客席は、その日その時にしか価値を持っておらず、空席のままではその席は経済的な絶対損失となってしまう。ハコを借りて公演をするという日本に特殊的な事情を考えてみてほしい。
先述の400人キャパシティの劇場の一日の借料が40万円だとすると、空席は入場料+一席あたりの借料1000円が絶対的な損失となる。空席があるということは、それだけの経済的損失を被っているということを意味する。空席のある公演は、幕が上がるたびにあらかじめ見込んでいる収入を失っているのだ。
開演直前に空席を販売するためのコストは限りなくゼロに近い。販売のために費やされるコストは、すでに確定した後であるからだ。従って、空席一席あたりの増分収益は、その席の価格とほとんど同額ということになる。これが、当日券割引や学生の当日割引、その他大幅な値引きによって空席販売促進を行うことの経済学的根拠である。販売コストがゼロに近い空席を売ることは、劇場・ホールや団体の販売における費用対効果の改善に大いに寄与することになる。
シングル・チケットのディスカウント提供は、普通は需要が低いと判断したときに行われる。事前の需要が弱い場合には、公演の7日から10日前に、一枚分の値段で二枚分買えるチケット(two-for-the-price-of-one tickets)を提供する例が欧米にはある。ロサンゼルスのセンター・シアター・グループは「パブリック・ラッシュ(public rush)」という制度をつくっている。これは、上演開始数分前になったらすべての残りチケットを10ドルで販売するというものだ。当然であるが席は舞台から遠かったり、いささか見切れのある席だったりはするが、観客開発部門のディレクターであるロバート・シュロッサーは、年間の観劇予算が80ドルのカップルを例に挙げ、80ドルの予算では彼の劇場では40ドルのチケットが2枚しか買えず、観劇の機会は1回しかない。が、しかし、「パブリック・ラッシュ」を利用すれば機会が4回になる、とこの施策のねらいを述べている。さらに重要なことに、彼らは習慣的に劇場に足を運ぶようになるのだ、とライフスタイルへの影響にも触れている。また、リリック・オペラ・オブ・シカゴは、サブスクライバー(年間予約会員)が返還したチケットを再販することで100パーセント以上のチケット売り上げを果たしている。これも、直前に発生した空席対策のひとつと考えて良いだろう。
しかし、空席対策は経済的側面にのみフォーカスしたものではない。舞台芸術が人々の感性に働きかけるものである以上、物理的・地理的移動を目的とする航空機とは異なり、空席の存在は観客の経験価値に悪影響を与える。これはマーケティング上、見逃せないことである。
あわせて事業収入は、前述したように劇場・ホールのキャパシティに応じて規定される。当然であるが、装置型産業は売れればいくらでも客席を多くするという拡大生産のきかない業種であるのは言うまでもない。収入の上限は限定的なのである。それだけに、総固定経費と変動経費が回収されて収益の出る損益分岐点を客席稼働率のどこにおくのか、空席対策としてどのような仕組みを導入し、絶対損失を最小限に食い止め、観客の鑑賞環境を向上させて経験価値を担保するのか、などが装置型産業のマネジメントやマーケティングの戦略では問われてくることになる。
シングル・チケットのディスカウント提供は、普通は需要が低いと判断したときに行われる。事前の需要が弱い場合には、公演の7日から10日前に、一枚分の値段で二枚分買えるチケット(two-for-the-price-of-one tickets)を提供する例が欧米にはある。ロサンゼルスのセンター・シアター・グループは「パブリック・ラッシュ(public rush)」という制度をつくっている。これは、上演開始数分前になったらすべての残りチケットを10ドルで販売するというものだ。当然であるが席は舞台から遠かったり、いささか見切れのある席だったりはするが、観客開発部門のディレクターであるロバート・シュロッサーは、年間の観劇予算が80ドルのカップルを例に挙げ、80ドルの予算では彼の劇場では40ドルのチケットが2枚しか買えず、観劇の機会は1回しかない。が、しかし、「パブリック・ラッシュ」を利用すれば機会が4回になる、とこの施策のねらいを述べている。さらに重要なことに、彼らは習慣的に劇場に足を運ぶようになるのだ、とライフスタイルへの影響にも触れている。また、リリック・オペラ・オブ・シカゴは、サブスクライバー(年間予約会員)が返還したチケットを再販することで100パーセント以上のチケット売り上げを果たしている。これも、直前に発生した空席対策のひとつと考えて良いだろう。
しかし、空席対策は経済的側面にのみフォーカスしたものではない。舞台芸術が人々の感性に働きかけるものである以上、物理的・地理的移動を目的とする航空機とは異なり、空席の存在は観客の経験価値に悪影響を与える。これはマーケティング上、見逃せないことである。
あわせて事業収入は、前述したように劇場・ホールのキャパシティに応じて規定される。当然であるが、装置型産業は売れればいくらでも客席を多くするという拡大生産のきかない業種であるのは言うまでもない。収入の上限は限定的なのである。それだけに、総固定経費と変動経費が回収されて収益の出る損益分岐点を客席稼働率のどこにおくのか、空席対策としてどのような仕組みを導入し、絶対損失を最小限に食い止め、観客の鑑賞環境を向上させて経験価値を担保するのか、などが装置型産業のマネジメントやマーケティングの戦略では問われてくることになる。




