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集客から創客へ☆回復の時代のアーツマーケティング

第二章 最新のアーツマーケティング/その理論的根拠。(1)

芸術団体や劇場・ホールは顧客に対して何を提供しているのだろうか。あらためて考えてみる必要がある。芸術性の高い舞台を提供している、あるいはその機会を提供している、楽しみを提供している、心躍る演奏を提供している、など人によってさまざまな答えが返ってくるに違いない。だが、マネジメントやマーケティングの立場にたてば、おのずと別の視点から舞台芸術をみることになるだろう。

製品やサービスに優れた機能的特性や便益、品質が備わっているのは当然だが、顧客が求めているのは、特性や便益以上に、楽しさや快適さなどの顧客の心にふれ、刺激してくれる製品やサービスであり、便益訴求を中心とした伝統的なマーケティングアプローチとは異なる新しいマーケティングコミュニケーションが必要である。
バーンド・H・シュミット「経験価値マーケティング」

あなたはコンサートに参加しているだけではない。あなたは人生を経験している。
アラン・ヘザリントン(アルス・ヴィヴァ音楽監督)

サービスの世界では、顧客が何を感じるかがすべてである。
リチャード・チェース&スリラム・ダス

「製品」とは、その製品が行うことを指す。つまり製品とは、顧客がそれを購入した際に受け取るベネフィットのパッケージ全体のことである
レイモンド・コーリー(ハーバート・ビジネススクール)

変化と適応こそ生存する唯一の方法。
セオドア・レビット

新規客獲得のために必要なマーケティング費用は既存客の維持に必要な費用の8倍かかる。また、既存客の維持率を5%高めると利益が25%上がる。
米国での調査結果

団体のマーケティング・ミックスの中で唯一最も重要な要素は、その団体の提供するものである。マーケティングの究極の目的は、1つかそれ以上のターゲット観客の抱えるニーズを満足させる提供品を開発することだ。基本的に弱い提供品であれば、最高にクリエイティブでドラマチックな広告を行ったとしても観客に売ることができない。さらに言えば、パフォーミング・アーツのイベントは単に音楽やパフォーマーだけのことではない。パフォーミング・アーツのイベントとは、経験のことなのだ。顧客が製品やサービスを取得したり、経験を求めたりするのは、そうした製品や経験が顧客に対して及ぼす行為を欲するからである。アーツマネージャーたちは、顧客が経験することのすべての側面に注意を払わなければならない。
(フィリップ・コトラー&ジョアン・シェフ・バーンスタイン『Standing Room Only』)

無形性の商品である芸術表現というものが他者(観客・聴衆)を必要する以上、舞台芸術は間違いなくサービス業に分類される。しかも舞台と客席のあいだで起こる「出来事」とそれから派生するさまざまな経験価値の総体を提供するビジネスである。異論はあろうが、マネジメントの観点からみれば、舞台や演奏の芸術的価値のみを提供するビジネスでは決してない。構造的な観点から見ても、パフォーマーと観客にとって互恵的なビジネスである。舞台や演奏の高品質はもちろん最前提条件であり、コア・プロダクトには違いないが、最終的にはその条件下で顧客にとって高品質で、総合的な「経験価値」を提供するのが芸術ビジネスである。

人間の満足の主要な形態の一つは刺激による喜びであり、これらは大部分、相互刺激によってもたらされる。(中略)刺激とは変化、多様性、驚き、新奇さから生じる。そして、これらは大部分、人間の行動と想像力に由来するものである。さらに、われわれが他の人々から刺激を受けているときには、われわれもかれらにとってひどく刺激的な存在となっている。
(ティボール・シトフスキー『人間の喜びと経験的価値』)

芸術ビジネスにおけるマーケティングは、その構造的な根拠から派生する「共感」と「共創」という交流によって生じる「経験価値」を提供して顧客維持を企図し、顧客ロイヤルティを高度化し、不断のコミュニケーションによって顧客進化を実現するのが主要な使命である。それによって狭隘な市場規模に対応した最適な経営戦略を採用し、組織的な強みを獲得し、顧客には快適でゆとりのあるライフスタイルを提案するのが芸術ビジネスであると言える。別の言い方をすればこころ豊かな「生き方」を提案し、顧客のライフスタイルの「変化」に関わるビジネスなのである。
そのような「共感」と「共創」に依拠した「経験価値」を演出し、提供するマーケティングを採り入れるには、舞台芸術という分野のビジネス特性を検証することにいま一度立ち帰って、芸術ビジネスの特性や根幹を再確認する必要があるだろう。経営的観点から舞台芸術の特性に着目することで、舞台芸術のマネジメントやマーケティングの特殊性を十分に把握しておかなければならない。

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