可児市文化創造センター(Kani public arts center ala)

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衛紀生館長のおしゃべりシアター「町が元気になる処方箋」

衛紀生館長のおしゃべりシアター「町が元気になる処方箋」(2)

2008年5月18日に西川信廣氏・平田オリザ氏と館長による「衛紀生館長のおしゃべりシアター『町が元気になる処方箋』」がアーラで行われました。その模様をホームページに掲載致します。

文化による都市再生

前回の続き)

ここまでは僕は劇作家、演出家ですから人をまるめこむのが商売なんで(笑)、皆さんもこれはちょっと演劇大事だなと思って、おそらく車で駐車場出るころになって何かだまされたんじゃないかと思われるかもしれませんが(笑)。これは別に夢物語とか理想論を言っているわけではないんですね。

1980年代以降、欧米の多くの都市は文化による都市再生に取り組んでいます。アメリカなどは車社会ですから、車をある程度シャットアウトして道をわざと曲げてゆっくり走らせるとか、大きな駐車場を造って、トラム、つまり路面電車をつくって町を走らせて都市を再生させているわけですけれども。その中核にかならず文化施設をつくっています。この文化施設を造る際にはかならずさっき言った、マイノリティの方々、ヒスパニック系の移民とか、チャイニーズ系の移民とか、障害者の方とか、高齢者の方とか、シングルマザーとか、そういう人たちが来やすい、来たくなるような施設を造って、そういう方たちに文化芸術を通じて社会に参加してもらう。そういう町づくりをしていく。

日本は今では公共ホールをつくるときには、ガス抜きと言われつつも市民の皆さんの意見を聞くじゃないですか。でも、話を聞くのは社会的優位にある側の人たちなんですね。要するにある程度豊かな人たち。踊りのお師匠さんとかピアノの先生だとか。こういう人たちは別に力を持っているんでいい施設ができれば勝手に使ってくれる。使ってくれるだけでなく、本来この人たちの力や技術を使って市民に何か還元するような役割を担って頂かなければならないんです。このひとたちは税金を沢山払っているし、議員さんと友達だったりする(笑)。こっち側の意見ばっかり聞いちゃう。これではいつまでたっても誰にも必要な施設にはならない。

だから町づくりの中で劇場というのはきちんと位置づけていくことが大切なんだなと思います。このことはただたんに町の安全、安心だけではなくて、やはり最終的には経済の問題になってくる。 

フランスで最も芸術文化の香り高い町

一番有名な例はフランスのナントですね。フランスの西の端にあるナントというのは30年ほど前までは造船業で有名で、しかしこれが日本と韓国の造船業に徹底的にやられてゼロになってしまった。鉄鋼業なのに溶鋼炉がなくなってしまうようなものです。

ところがそのときに30代の若い市長が現れて、ナントを「文化によって再生する」と宣言したんです。そのときは誰も信じませんでした。しかしナントの町の真ん中にあったビスケット工場、これは日本ではビスケット工場として紹介されていますけれども、実際には遠洋航海用のカンパンをつくっている工場なんですけれども、造船場がなくなっちゃったから要するにこれも必要なくなっちゃった。その巨大なビスケット工場をアートスペースに換えて、劇場やギャラリーや練習場を沢山その中に造りました。

それからクラシック興味のある方はおそらく名前は聞いたことがあると思いますが「ラ・フォル・ジュルネ」、「熱狂の日」という、いま東京では有楽町などでやっていて、それから仙台だとか、金沢などでもやっていますが、集中的にベートーベンならベートーベン3日間、何十というコンサートをやって1回ごとは500円とか、1000円で聴けるという、そういう新しいスタイルの音楽祭はじめたりだとか、巨大な人形がカーニバルをはじめたりだとか、何よりもアーティストを優遇して空いているアパートとかにほとんどタダでパリからアーティストどんどん住まわせたりします。ナントはまずフランスでもっともアーティストに優しい町というイメージをつくりました。

結果としていまナントはフランスで最も芸術文化の香り高い町として名を馳せるようになりました。しかし、そのことによってさらに波及効果があり、今ナントはフランスの新聞などでは毎年のようにフランス人の老後に住みたい町ナンバーワンになります。フランス人はリタイアが早いので50代半ばでリタイアします。そうするとパリって非常に住みにくい町で、リタイアするとみんな地方都市に行く。彼らはまだ50代で元気ですから、どこに住むかを選ぶときに、自分の好きな音楽や演劇や美術やオペラが盛んな町に住もうとする。毎週のようにそれが観られる町に住むと。彼らはお金も持ってますし、資産も持ってますし、どんどんお金を使います。老後の心配があまりない、お金も全部使いきろうとします。どんどんお金を町に落とします。さらに固定資産税がどんどん入る。そして税収があがって、その上がった税収をまた文化に再投資できるという、いい循環が生まれます。

そして最終的には造船場も復活しました。なぜならナントは「ナントブランド」という町自体がブランドイメージが高まったためにナントで作られる高級クルーザーが売れるようになりました。大きな船はもう造らないでいいけれども、非常に単価の高い高級クルーザーを「ナントブランド」として売り出すことで造船業さえ復活しました。

こういう風に文化というのは町づくりの核としても重要ですし、実は新しいタイプの産業再生においても重要なわけです。なぜならこれからの産業、特に日本はまさにそうですけれども重厚長大型の産業には限界があります。これから先は付加価値で売っていかなければなりません。いくらいい製品を造っても、それをどう売っていくか、どういう風に人間の幸せに結び付けていくか、その付加価値というのが大事なんです。

付加価値というのは何でしょう。それは他と違うということです。大量生産、大量消費は人と同じということです。同じ製品をできるだけ不良製品を出さないようにしてきたのが日本のこれまでの工場のあり方です。でもこれからは色んな人と違うサービスをやっていかなければならない。そうすると、そこには芸術文化という感性が非常に必要になります。町を観光で売っていくにしろ、町づくりを考えるにしろ、いままでは東京の命令に従ってみんな同じように全国一律の町をつくっていけばよかった。でも結局そのために本当に地方は疲弊していってしまった。そうではなくて他の町と違う、自分たちの町なりの新しいやり方をつくるにはどうすればよいかというのを、自分たちで判断できる市民を育てなければならい。じゃあそれはどこから育つでしょうか。それは僕は子供のうちから高度な芸術文化に触れることによってしか育たない。ですから今それを育て始めないと、10年後、20年後にその町を誰が運営していくのか。要するに、今のまま東京の言いなりになって運営していたら結局全部お金を東京に吸い取られて終わってしまう。そういう意味でも、今ここで芸術文化を町づくりの中核にすえるというのが重要になってくるわけです。(拍手)


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