第七十四回 “アーラ”の大規模改修工事計画に触れて/可児市文化創造センター

連載 館長 vs 局長	「公共劇場」へ舵を切る その理念と経営の実際

第七十四回 “アーラ”の大規模改修工事計画に触れて

可児市文化創造センターala 事務局長 山口和己

可児市文化創造センター“アーラ”は、おかげさまで、平成14年7月にオープンして以来約15年の月日が経過しました。
人口10万人の都市には似つかわしくないとして、当初より維持管理に苦労するであろうとの大方の予想に抗して、大過なく利用者に愛され続けてきたこのアーラもいよいよ経年による大規模な改修工事を必要とする時期を迎えました。
加えて、全国の劇場・音楽堂においても共通することですが、近年、地震による天井板の脱落被害や、屋内プールにおける吊り天井の落下事故が発生したことにより、脱落対策についての技術的助言や建築基準法の一部改正を受けて、一層規模を大きくした改修工事を実施しなければならないことになりました。

私は“吊り天井”と言えば、時代劇などで無数の槍先を仕込んだ天井を落下させる罠であるとかプロレス技の「ロメロ・スペシャル」や「メキシカン・サーフボード」とも呼ばれる「吊り天井固め」等のイメージで認識をしていました。
しかし、阪神淡路大震災や東日本大震災での大空間の天井落下被害、さらに衝撃だったのは多くの犠牲者を出した2012年12月に起きた中央自動車道笹子トンネルでの天井板落下事故によって、私の吊り天井への認識は、常に落下の危険を秘めた構造物へと変わって行きました。さらに、当アーラに配属となった後は、まさにこの建物自体が、この構造物の集合体であることを知りました。
そして、吊り天井の中でも、特に脱落対策が必要な「特定天井」というものを認識するに至りました。

「特定天井」と称される対策の必要な天井とは、「吊り天井で、人が日常立ち入る場所に設けられていて高さ6mを超える天井の部分で、その水平投影面積が200㎡を超えるものを含み、天井面構成部材の質量が2kg/㎡を超えるもの」と定義されており、アーラでは、主劇場、小劇場、大きく羽を広げたような軒下からロビーにつながる巨大な天井がこれに当たります。
改修工法としては概ね次の4通りがあるようです。①撤去、②撤去して建築基準法適合の耐震天井を新設、③撤去して軽量柔軟な天井を新設、④撤去して天井を直張り。
ただし、落下防止の目的からすれば、撤去せずに補強施工をするとか、落下を受け止めるネットを張るようなことも考えられます。
本市では、今年度中に実施設計が完成しますが、我々劇場を運営管理する側としては、特定天井脱落防止対策として、主劇場及び小劇場の特定天井については、音響等に影響の出にくい、フェールセーフの工法、すなわち落下を受け止めるネットを張ることを望んでいます。一方、重量のある銅合板が吊られている軒下から続くロビーの天井については、撤去の上、軽量柔軟な天井を新設することは、止む終えないことかと認識しています。

大規模改修については、近隣の市町村でも最近完了した劇場や現在進行中あるいは近々改修予定などと、半ば改修ラッシュの様を呈しています。
全国的にも多くの劇場・音楽堂が検討しておられることと思います。
アーラに視察に訪れられる方々からのお話を伺うと、このアーラでは検討の余地も無いような段階から様々な検討や方針の転換を余儀なくされておられる自治体も存在していることを知りました。
それは、「持てる自治体」の悩みとも言えるのでしょうか、平成の大合併によって、一気に複数の劇場・音楽堂を持つこととなった自治体の悩みです。まだまだ、この先高度成長が続くのであればいいのですが、社会構造の変化は近年非常に大きく、先行きも厳しい経済状態を強いられる状況の中で、施設の位置付けはもとより、規模も縮小しなければならない中での改修や建設は、非常に慎重に行わなければなりません。

こうした自治体でなくても、高度成長あるいはバブル期あたりに建てられた公立建築物の老朽化が進む一方、少子高齢化の進展や人口減少などの人口構成の激変、産業と行政基盤の変化や甚大な自然災害への備えなどの全国的な課題が、公立文化施設の維持、修繕、改修に大きく難題を突きつけて来ています。
取り壊さざるを得ない施設、改修の上残すべき施設、既存の場所あるいは新規場所での新設等、大枠の方針を固めると同時に、文化芸術基本法や各自治体が持つ設置管理条例や文化振興条例などとの整合性も念頭に、その目的と運営の実態が一致できるようにするにはどのような改修あるいは新築が必要かということも考えなければなりません。
自治体においては、当然ながら改修が必要なものは劇場・ホールだけでなく、すべてのインフラが補修対象となり、財源確保も非常に困難となります。
このアーラの改修においては、兼山町との合併における「合併特例債」の活用を検討しています。

さらに劇場・ホールは、舞台機構、音響設備、照明設備等特殊な設備が存在し、高所での作業や暗所での作業も強いられ、しかも緻密なバランス等も求められるため、一般の場合と比べて、厳格な基準での施設維持管理や計画的な改修、定期的保守点検が必要となります。アーラでは、平成26年度に2億500万円程をかけてホールの大々的な音響設備改修工事を行いましたので、今回の改修計画からは除外となります。
舞台機構においては、やはり安全性をしっかり確保すること、照明設備では、LED化も視野に入れながら、機能維持を中心に進めなければなりません。LEDの技術も進んできてはいますが、まだ一部には、調光カーブ特性が出せない器具もあるので、慎重に選択していく必要性を感じます。

今回のアーラにおける大規模改修工事では、特定天井にかかる落下対策と設備の老朽化対策が主な目的ではありますが、当然のことながら、一層のバリアフリー性、防災性、施設の延命(持続性)も追求していこうと考えています。当然、コスト(予算)との整合性を図りながらですが。
こうして考えていくと、私の素人考えからしても、工事は長期に亘ることとなり、工事費の効率性も考えると、改修期間中は、休館とすることも止むを得ないことかもしれません。
そこで、私や館長の関心は、この大規模改修工事を実施するために、アーラをどれだけの期間閉館しなくてはならないかということに集まります。

稼働率が高く代替施設が乏しいなどの理由で休館しないで改修工事を行う場合は、危険度や社会的要求、法との整合性を図りながら、一部ずつあるいはエリアを決めて進めることもできます。または、長期の休館を避けて、例えば年間3ヶ月ずつ休館して3年~4年がかりで分散した改修を行うことも可能かもしれません。
アーラとしては、昨年度実績で、全体の稼動率が82%、大ホールと小ホールのみの平均稼働率が69.2%という事情を考慮して上記のような方法を取れればいいのですが、大ホールと小ホールの特定天井脱落対策、ロビー等広範囲に亘る銅板天井の交換取り付けという規模の内容から、開館しての安全を確保しながらのエリア別工事のみでの対応は困難です。一方、3年~4年がかりの工事は、合併特例債の期限の関係で無理となります。

いずれにしても、一定の周知期間を置いた後、東京オリンピック・パラリンピックの開催年でもある平成32年の年度末までには改修工事が完了できるよう、市に協力しつつ、管理運営に支障を来たさないよう配慮しなければなりません。
その過程の中で、全体の工期の圧縮、全館閉館の期間を最低限度にするための部分閉館での対応を要望していくとともに、市内の他の公共施設の活用も含め、アーラの活動が継続して市民・利用者に届けられるよう努力を続けていかねばならないと考えています。




 

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