連載 館長 vs 局長	「公共劇場」へ舵を切る その理念と経営の実際

第七十一回 『いじめ防止自治体サミット』開催に寄せて

可児市文化創造センターala 事務局長 山口和己

去る10月28日、我々の地域の地方紙のトップ記事は、100歳になられた三笠宮さまのご逝去の報でした。おそらくどこの新聞も一面で扱った事案だと思います。そして、同じくトップを分け合った記事は、「いじめ最多22万4,540件」の見出しで扱われた“いじめ”問題でした。このいじめの件数は文部科学省が行った問題行動調査によって明らかになったもので、全国の国公私立の小中高と特別支援学校の合計で、昨年度の件数が過去最多になったというものです。件数が著しく増加したのは小学校で過去最多の15万1190件、中学校及び高校の件数も前年度を上回っているとのことですが、文部科学省は「件数増は、積極的な把握に努めた結果だと捉える方針が浸透したため」としています。そうであるなら、件数増加がそのままの勢いで悲惨な方向に向かっているという事ではないと思いたいものです。

同じ新聞の社会面では、中部各県の状況と各県の些細ないじめをも把握しようとする取り組みを紹介しています。ここでもやはり1年前に中学1年の男子生徒がいじめを訴えた遺書を残して自殺した愛知県では過去最多の1万2921件、岐阜県は3割増、三重県は約1.5倍、大津市でいじめを苦にして中学2年の男子生徒が自殺した滋賀県でも約1.7倍に認知件数が増加したとの事です。 軽微な事案でも把握するために、アンケート調査をしたり、個別面談をしたり、何よりも教師が児童生徒との良好な信頼関係を築く一層の努力をするなど、教育現場の必死とも言える努力が、ある意味この増加数値にも表れているということなのかもしれません。

最近、記憶に新しい事案として、青森市で中学2年生だった葛西りまさんがいじめを苦に列車に飛び込み、亡くなりました。 彼女のお父さんは、遺書にあった「いじめをなくしてほしい」というりまさんの願いを大きな決意に変え、彼女の実名と写真を公開しました。 公開された写真は、皆さんも鮮明に覚えておられることでしょう。りまさんが亡くなる10日前、青森市の男性が撮影した笑顔満面で朱色の傘を持って「津軽手踊り」をする彼女の姿の写真です。 この写真は、青森県黒石市で行われた写真コンテストで、最高賞の黒石市長賞に内定し、その知らせは、ちょうどりまさんの四十九日にもたらされ、ご家族は、この受賞を喜び、写真の公表を快諾されたとのことです。 しかし、まもなくこの受賞は「祭りの趣旨にふさわしくない」との理由で取り消されてしまいます。

事後の報道で、主催者側からは、出品者の男性が受賞を辞退したとか、りまさんやその家族に奇異な目が集まらないか、など検討を重ねた結果であったようですが、最終的には、受賞を決定した黒石市長を始め関係者の皆さん、ネットなどでの誹謗中傷も覚悟の上で、実名、写真、いじめの事実を全て公表したご家族の決断は、非常に重いものであったと思います。 りまさんのお父さんは、「いじめられている中でも、最高の笑顔で大好きな仲間と大好きな手踊りを一生懸命踊って生きていた娘の姿を知ってほしい。好きなことに一生懸命とりくんでいた子どもでも、いじめによって残酷な結果になってしまう。写真を見て一人でも多くの人にそのことを感じてもらえれば、……」と報道記者に声をつまらせて訴えられたそうです。

私にも、今大学生の娘がおります。思い起こせば、特に中学生だった頃、いじめとまでは行かなかったとは思いますが、ちょっとした仲間はずれをされた、小学校時は仲が良かったのに、態度が一変してしまった友達のことなど、悩みを持っていた時期もありました。 娘は、家でいろいろ話してくれて、私も妻も相談に乗ったり、アドバイスをしたりして非常に神経を使った時期もありました。 もしも、娘がりまさんのように笑顔いっぱいに頑張っていながら、ある日突然、いじめられていたことを苦にして自殺でもしたら、などと考えると、この青森の事案はまったく人ごとではありません。 今回のご家族の決断は、全国の人たちに“いじめ”の本質、深刻さ、残酷さなどを知らしめる大英断であったと改めて思います。

この可児市でも、かつて陰湿ないじめが明らかになり、報道などに大きく取り上げられたことがありました。今回の青森の事案を機に、黒石市の高樋市長さんは、「いじめをなくすために何でもやる」と決意されたように、可児市においても冨田市長が陣頭指揮を執り、市議会とも連携して、全国で初めてのいじめ防止条例である『可児市子どものいじめの防止に関する条例』を策定し、“いじめ”撲滅に積極的に取り組んでいます。 本市では、教育・学術・文化などの施策の根本となる方針として、「可児市教育大綱」を定め、「マイナス10カ月から つなぐ まなぶ かかわる子育て」のもと、その中で主要な役割を担う義務教育を中心として、子育て全般に切れ目の無い教育を推進しようと考えています。 そして、この大綱の実現に向けて、学校現場の子どもたちや、教師、保護者、地域住民等に笑顔があふれているイメージを『笑顔の学校』と表現しています。

来る11月20日(日)に、ここ可児市文化創造センターalaを会場に、『いじめ防止自治体サミットin可児』が開催されます。 参加される方々はすでに参観申し込みを完了しておられるとは思いますが、第1部では、可児市いじめ防止専門委員会特別顧問で教育評論家の尾木ママこと尾木直樹氏の「いじめ問題をどう克服するか」~悲劇の連鎖を止める!学校、家庭、社会にできること~と題した基調講演が行われ、それを受けての文部科学省や参加自治体による意見発表が行われます。 第2部では、尾木氏がコーディネーターとなり、滋賀県大津市の越市長、大阪府箕面市の倉田市長、文部科学省初等中等教育局児童生徒課長の坪田氏をパネラーとしてお迎えし、本市の冨田市長が加わるかたちでパネルディスカッションが展開されます。 いじめ問題の克服のために最前線で取り組んでいる自治体や国の最新の考えが発信され、全国にいじめ防止の気運が一層広がることを期待したいものです。




 

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