第六十回 ワークショップ、アウトリーチを体験して/可児市文化創造センター

連載 館長 vs 局長	「公共劇場」へ舵を切る その理念と経営の実際

第六十回 ワークショップ、アウトリーチを体験して

可児市文化創造センターala 事務局長 山口和己

アーラの指定管理者である公益財団法人可児市文化芸術振興財団の平成26年度事業報告においては、大きく4つの事業分類がなされています。①鑑賞体験促進事業、②まち元気・市民交流促進事業③施設管理・貸館事業④その他事業です。
①及び③の事業については、ほとんど公立文化施設において行われていることでしょうが、我がアーラでは、②のまち元気・市民交流促進事業が①や③の事業と同等に活発に実施されています。
平成26年度事業から単純に拾いあげて数えてみたところ、423回にも上る活動が実施されていました。

「まち元気・市民交流促進事業」とは、市民102人が参加して半年をかけて完成させた「市民ミュージカル」、国籍の異なる市民が29回にわたって集い、衣裳・舞台美術・上演までを果たした「多文化共生プロジェクト」をはじめ、本財団と地域拠点契約を結ぶ『新日本フィルハーモニー交響楽団』、『文学座』による「おでかけコンサート」、「おでかけ朗読会」、「音楽クリニック」、「朗読ワークショップ」「演劇ワークショップ」や、子どもから高齢者、乳幼児とそのお母さんを対象にして実施する「ココロとカラダ・ワークショップ」「スマイリング・ワークショップ」「コミュニケーション・ワークショップ」及び「50歳からの趣味講座」-。
その他にも「森山威男ドラム道場」・「人間国宝が教える常磐津教室」・「歌舞伎とおしゃべりの会」「アーラ イルミネーション」「ROCK FILL JAM」「アーラコレクションサポーター活動」「演ゲキッズクラブ」「アーラ未来の演奏家事業」等々、アーラ独自の事業を展開しました。

私が、ここアーラに来て約3か月半、実際に見て、体験し、事業(ワークショップやアウトリーチ)について、どれほど望まれ、いかほどの効果を上げているのか、その一端を紹介してみたいと思います。

まずは、「ココロとカラダ・ワークショップ」のうち、高齢者の健康維持と交流の機会づくりを目的とした「ココロとカラダの健康ひろば」です。
担当職員に促され、館長共々水と緑のひろばに出たところ、指導するTen seedsの黒田百合代表らにいきなりフォークダンスの輪の中に引っ張り込まれました。
曲は、有名ではあるものの、自身が学生時代以来踊ったことのない「オクラホマミキサー」。ダンスはすぐに思い出しましたが、かつて学生時代に味わった恥ずかしさも同時に思い出してしまい、ぎこちなさを隠せませんでした。
それでも、軽やかに踊る参加者に後れを取ってはいけないとの一心で一生懸命踊り、2順目3順目と回るうちにかなり汗ばんで息も上がってしまいました。我々はこのフォークダンスのメニューだけの参加で放免となりましたが、参加の高齢者の方々より、よほど自分が不健康ではないかと実感した瞬間でした。
さらに感じたことは、参加者の皆さんの明るくはつらつとした表情です。このワークショップをきっかけに、家の外に出て、積極的に人と接することができるようになったという方もおみえだそうです。

また、市内の中学校で文学座の俳優、中川雅子氏による「おでかけ朗読会」があるということで、生徒と一緒に鑑賞するため、当該中学校へ出向きました。対象生徒は1年生の2つのクラス。生徒が入室する前にBGMの音量調整、読み手の位置決め、中川さんの発声チェック、さすがに本格的な準備だと思いました。エアコンの音が邪魔をするということで、事前によく教室内を冷やし、始まったらスイッチOFFとの打ち合わせまで行って、朗読は始まりました。作品は、ザリガニが主人公の短編小説『バルタン最後の日』と一般の方が母親に宛てた手紙を収録した作品集から2作品の合計3作品でした。
驚きでした。『バルタン最後の日』では、登場人物すべての声の調子を使い分けての迫真の朗読で、その場の情景が目の前に現れるような、物語の中に引きこまれるような感覚を覚えました。母親に宛てた手紙2作品には、涙が溢れ、生徒たちに気付かれないように拭うのが大変でした。後から担当職員に聞きましたが、私が感極まっていたのと同じように、あちらこちらで生徒にも涙を拭く姿があったということでした。

次は、市内の小学校で「コミュニケーション・ワークショップ」を行うとのことで、その小学校の体育館へ行きました。対象は、小学3年生の1クラスです。体奏家(たいそうか)でありダンスアーチストの新井英夫氏が、ユニークな登場の仕方で児童の心を早々に掴み、場の雰囲気を和ませ、少し体をほぐした後、スタッフを愛称で紹介。突然、見学していた私と事業制作課長までもが愛称で紹介され、引き込まれることとなってしまいました。この時、ある女の子が「えー。偉い人は、入れたらまずいんじゃないのー?」と、大人の世界を気遣ったような微笑ましい態度で発言。みんなも相槌を打ちながらも、加わることを歓迎してくれている雰囲気が出来上がりました。私は、早くもコミュニケーション能力が活性化していると感じました。
ワイシャツ姿の私や事業制作課長も加わってワークショップが進む中、こんな場面がありました。全員で飛び上がって、音をさせないように着地するということに挑戦するのですが、なかなか全員が静かに着地できませんでした。「今度こそは」と、みんなで精神を集中させて最後の跳躍をしようと誓い合っての跳躍、みんなが静かに着地できた瞬間、こともあろうに、この時に限って、私の胸ポケットから常用している点鼻薬のケースがこぼれ落ち、体育館中に「カラン、カラーン!」。慌てて拾い上げる私、私をにらみ、わたしのところに全員が歩み寄って非難を浴びせるそぶりをする児童たち。みんなに謝る私。
私は、本当に申し訳ない気持ちで一生懸命手を合わせて皆に謝りました。ただ、私の方へ歩み寄る児童たちの表情には、心の底からの怒りや人を非難する気持ちのないことが非常によく表れており、愛おしいくらいの豊かなものを感じました。
後でその様子を見ていた担当スタッフの言葉にも、「とても和気あいあいとした爽やかな場面で、その場のみんなが本当に親しいコミュニケーションのとれた集団に見えた」と言ってくれたくらいで、このワークショップの一つの成果を見たような気がしました。

ある小学校の6年生を対象に行う『新日本フィルハーモニー交響楽団』による弦楽四重奏(ヴァイオリン×2・ヴィオラ・チェロ)のアウトリーチを追いかけ、当該学校の音楽室へ。演奏の鑑賞もさることながら、実際に楽器に触れて、音を出してみる体験を全員が行いました。生まれて初めて間近に見る楽器に恐る恐る手を伸ばし、指導されるままに音が出ることを確認して、にんまりとする児童たち。
中には、引っ込み思案でなかなか自発的に出ていけない児童もいます。その一方、未だ楽器に触っていない子の背中を押して送り出す児童もいます。たまたま、この時には、ヴァイオリンを習っている子が上手に弾いて、ヒーローのごとく喝采を浴びる場面もありました。
こうした経験を通して、将来、音楽方面に進んでいく子が出てくれればいいな、とか、音楽を共通の話題にして心豊かに成長してほしいと思いました。

私は未だ見学出来てはいませんが、「ココロとカラダ・ワークショップ」のうち、乳幼児を対象に、創造力や感受性を育みながら、親子の絆や仲間同士の繋がりを深める「親子de仲間づくりワークショップ」においては、今年度は前期20組の募集に対して43組もの応募があり、主催者としてはうれしい誤算となりました。思案の結果、10回のコースを6回ずつの2つのグループに分けて、希望者全員が受けられるように配慮しました。
若いお母さん方が、子育てに悩み、孤立しがちな今の時代、仲間づくりや親子の絆を深めるお手伝いが社会に求められ、その役割の一端をアーラが担っている、という実感が湧いてきます。

まだまだ、私のアーラでの見聞は不十分ではありますが、演劇・芸術の手法を用いたこうしたワークショップやアウトリーチの奥行きは、際限なく広がっているように思えます。
私が、可児市役所に勤めて33年余となり、常に「市民のため」を旨として、様々な部署を経験してきましたが、現在の素直な気持ちとしては、「こうした分野があったんだ!」そしておこがましいかもしれませんが、「この場を得たり!」の心境となっています。










 

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