連載 館長 vs 局長	「公共劇場」へ舵を切る その理念と経営の実際

第五十三回 今年もあとわずかです

可児市文化創造センターala 事務局長 山本和美

今年も12月となって、あと2週間足らずとなってきました。4月に財団に異動してきてはや9か月になろうとしています。昨年の今頃はといいますと、9月に学校給食のパンに小バエが混入した事案が発生しました。その関係で、学校給食異物混入対応マニュアルの策定を進めていました。たった1年前のことですが、隔世の感があります。これまでは、年に2~3度しか利用していなかったアーラが自分の職場になっているわけですから。9か月の間に仕事とはいえアーラを見る視点が大きく変わったと感じています。

これまで市役所で携わった仕事でアーラと直接かかわっていたのは、契約関係の仕事で、財団から入札事務の委託を受けて委託業務の入札手続きをしていたときです。また、間接的には議会事務局で議会側からの視点でアーラを見ていた時ではないかと思います。両方ともどちらかというと文化的視点というより経営的というか効率性を求める方向からアクセスしていたような気がします。アーラの存在について収入支出といいますか赤字黒字的な側面からの議論を中心に聞いてきた気がします。しかし、アーラにきて仕事をしてみると、アーラのような文化施設の運営がどうあるべきか?ということについて考えたことすらなかったということや、経済的視点からばかりで見ることが間違っているということに気づきました。文化的な活動をする公民館に勤務していた時もありましたが、ここでは社会教育又は生涯学習的な視点から淡々とその運営に携わっていました。

以前にも紹介したとおり、館長が掲げるアーラの基本的な運営方針は、「芸術の殿堂」(The Arts Pantheon)より、すべての市民の経験と思い出の詰まっている「人間の家」 (The Peoples Home )をつくろうということです。地域の劇場が質の高い作品を創造し、鑑賞する機会を提供することは大前提だけれども、それとともに求められるのは、「理解されること」、「共感されること」、「打ち解けられること」、「敬意を持って受け入れられること」、「必要とされること」、「賞賛されること」などの人間の健全な営みである「経験価値」を提供しつづけることであり、健全な地域社会の形成に寄与する社会機関として劇場経営を進めるということです。通常私たちが文化施設というと社会教育や生涯学習的視点で物事を考えてしまいますが、それだけでなくもっと広い範囲で考えていこうとしています。

アーラにはほんとうにいろいろなお客様がお見えになります。財団主催の公演を観に来る人はもちろんのこと、受験勉強やテスト勉強に来る中学生や高校生、芝生広場へ遊びに来る小学生やお母さんと一緒の乳幼児、就職の面接を受けにくる人、ダンスの練習に来る人、将棋を指しに来る人、即売会の中古パソコンを買いに来る人。様々な目的をもって、時にはただぶらっとアーラにおみえになります。そんな中で12月平日の夜に開催した「音楽家の集い」というミニコンサートに歩行補助車を頼りにされている80歳を超えていそうな女性の方が一人でみえていました。はじめてアーラに来られたようです。今回は日本を代表するテノール歌手畑儀文さんがうたう「童謡30選」という内容でしたが、開演中ずっと畑さんの歌と一緒に童謡を口ずさんでみえました。約2時間楽しく過ごされた後、ひとりでタクシーに乗って帰って行かれました。少々心配でしたが、これが当たり前という感じで帰って行かれました。こんな光景が日常になることがアーラの向かう一つの方向なのかなとその時思いました。

では、日常のアーラはどんな活動をしているのでしょうか。12月13日(土)の17時30分頃のアーラの活動状況をレポートしてみます。“芝生広場ではアーライルミネーション点灯式のカウントダウンが始まっています。今日は幼稚園年中さんぐらいの子が点灯ボタンを押します。小劇場では、本日18時開演の「中西桂三ネオクラッシックコンサート」の開場時間です。アーラクルーズのフロントスタッフ担当が開場の挨拶をしています。演劇ロフトでは、明日行われる「冬の朗読会の準備が進められています。予定より遅れているようです。館長室には、朗読者の文学座女優の石井麗子さんがリハーサルのスタンバイをしています。演劇ロフトの隣の美術ロフトでは、3月に公演のある市民ミュージカル「君といた夏」のリハーサルがロフトをめいっぱい使って行われています。出演者の児童生徒がダンスのパート練習をしています。G階の演劇練習室では同じく歌のパート練習。2階のワークショップルーム洋室では演出の黒田さんと5人の主役の児童たちがマンツーマンで芝居の練習をしています。その向かいのレセプションホールでは明日実施される可児市文芸祭(可児市から財団が受託している事業)の優秀作品の表彰式会場の準備をしています。スタッフが椅子を並べています。その他に貸館で諸室がいくつか使われています。主劇場も昼間の保育園の音楽会が終わって明日の貸館の仕込みがこのあと18時から始まります。私も点灯式に参加して、その後すぐに小劇場へ行ってお客様をお出迎えします。今日は、出張中の館長に代わってバースデーサプライズの挨拶をして各席をまわります。”

土曜日の夕方こんな感じでアーラは動いています。この日が特別というわけでなく週末は日常的にこんな感じです。時には平日でもこんな状況になることがあります。瞬間的にではありますが総勢26人ほどの事務室に受付の一人と私一人しかいないこともあります。職員みんなで共有している「芸術の殿堂から人間の家へ」という言葉を現実のものとするため、みんなめいっぱい働いています。いつ立ち止まるのかと心配するほど頑張っています。しかし、まだまだ改善していくところはなくなっていません。ワークショップのアンケートに「アーラがこんな事業をしていることを初めて知りました。」というようなご意見もありますし、初めてアーラで演劇を見ましたというようなご意見は、わたしが来てからも数多く伺いました。まだまだアーラを知らない人がたくさんおみえになります。そうした方々にアーラを知っていただく、アーラに来ていただく仕掛けを考えていかなければいけません。また、アーラに行きたいけど一人では出られないという方もたくさんおみえになると思います。そんな人たちのためにもアーラまち元気プロジェクトのなかできめ細かく対応できるといいなと思います。アーラはまだまだ成長していく必要のある施設だと思います。

しかし、今後文化施設への風当たりは、相当強くなってくることも予想されます。12月は来年度予算編成の大詰めを迎えています。今年も来年度の指定管理料が減額されるのではないかという不安のなかでの27年度予算編成となっています。市役所においても同様に大詰めを迎えているようです。査定前の当初予算要求額は2,925,921千円の歳入不足になっているようです。これだけの歳出をカットしていくとなると相当の大ナタを振っていかないといけない状況のようです。そのあおりがアーラに来ないことを願うばかりです。また、市では公共施設のファシリティマネジメントを進めています。今後50年間の将来的に必要となる経費を積み上げて可児市全体の公共施設とインフラにかかる経費をはじき出して、今後の方向性を検討する作業です。経費という数字の面では、アーラは、市内の公共施設で規模が最大級なだけに一番の金くい虫ということになってしまいます。今後、経費削減の矢面に立たされそうです。来年からは、経費はかかるけれどもそれに見合うほど人々の心の拠りどころとなり、文化芸術でコミュニティの健全形成に資することのできる社会機関として市民の皆さんに認知してもらう努力がさらに必要になってくると思われます。





 

このページの上部へ