第五十一回 アーラの自主企画・製作公演について/可児市文化創造センター

連載 館長 vs 局長	「公共劇場」へ舵を切る その理念と経営の実際

第五十一回 アーラの自主企画・製作公演について

可児市文化創造センターala 事務局長 山本和美

アーラの年間事業の中に、自主企画・製作公演が5事業あります。これらは、アーラが、平成25年度に「劇場・音楽堂等活性化事業」特別支援施設に採択された理由の大きな柱となっているものです。平成26年度は、(1)多文化共生プロジェクト2014「おはなし工作ものがたり2」 (2)森山威男ジャズナイト2014 (3)シリーズ恋文vol.5 (4)アーラコレクションシリーズ vol.7「黄昏にロマンス」―ロディオンとリダの場合― (5)市民ミュージカル「君といた夏~スタンドバイミー可児~」の5事業です。このうち(1)~(3)は好評のうちにすでに終了しています。これらの事業については、これまでにも、このコーナーや館長エッセイ等で館長や歴代の事務局長がそれぞれ取り上げています。まだまだ新米の私がうまくお伝えできるかどうか疑問もありますが、最近の情報を織り込んで今一度簡単に紹介します。

まず、(1)の多文化共生プロジェクトは、今では可児市の一つの特徴といえるものになりましたが、1990年の入管法の改正以来増加した外国人住民との共生を進める視点からスタートしています。平成26年10月1日現在の可児市の人口は、100,893人です。そのうち5,350人、約5%の方が外国籍の住民です。ピーク時は約7%、7,518人の外国籍住民が住んでいました。外国籍住民の増加に伴って、可児市やその周辺市町では、社会生活、子どもの教育、福祉施策等々外国籍住民に係る多種多様の問題を抱え続けています。一口に“文化の違い”というだけでは語りきれない深い問題はありますが、地域劇場として外国籍住民と日本人の間に起こっている文化的摩擦に対してできることは何か、という問いを出発点に2008年からこのプロジェクトが開始されました。日本人とブラジル人、フィリピン人を中心とする外国人が、演劇作品を共につくり上げることで国籍の壁、更には、性差、障がい、年齢という様々な壁を取り払った交流を作り出すことにより「違い」を認め合うコミュニティの実現を目的として実施しています。今年は、7回目の公演で、7月から本格的に稽古が始まり8月30日に本番が行われました。ブラジル人、フィリピン人、ペルー人、日本人あわせて33人が舞台に立ちました。
ある日の稽古を見学している中で、まったく演劇経験のない外国籍の子どもたちを中心に、まず、遊びながら、そしてだんだん演じることへ興味をもたせて、終わるころには参加者全員が演じる方向に束ねていく過程を見て、プロの演出家はすごい!という感想を持ちました。稽古の過程で順調ですということはほとんど言えなかったようですが、なんとか好評のうちに公演を終了することができました。まだまだ当初の目的を達成するまでには至っていませんが、この事業を行うことで、アーラが外国籍の子どもたちの居場所になっていることは確かだなという実感を得ました。

(2)の森山威男ジャズナイトは、世界的に名を知られている市内在住のジャズドラマー森山威男さんと財団との共同企画により、公演までのすべてを財団スタッフにより実施するものです。アーラが開館する前年2001年9月から始まりました。最初の公演は、アーラのお隣の可児市福祉センターで開催されました。以来ジャズナイトは、9月の第3土曜日に開催することが恒例となっています。今年は14回目の開催となりました。はっきり言ってものすごい迫力でした。感動しました! アナログからデジタルへ音響装置改修直後の主劇場は、パワー全開でした。森山さんは一曲一曲、燃え尽きるまでという形容がジャストフィットするぐらいの気迫で戦っているという感じがしました。とはいうものの、公演中ずっと大迫力のなか鬼気迫るという感じというわけではありません。休憩時間には、参加者全員でジャンケン大会が行われました。森山さんと会場の観客全員がジャンケンをして最後まで勝ち残った人が、森山さんからプレゼントをもらうという趣向です。演奏時とは違って普段の温厚な森山さんの人柄を感じられるこの時間も大いに盛り上がりました。14回目ですが、会場はほぼ満席です。全国各地からの多くの熱心なファンの方が来場されるとともに、「初めて来て、勇気、パワーをもらった。来年も必ず来ます。」とアンケートに感想を書かれる方もいます。今年は、14回目にして初めて、甲府市と横浜市でツアー公演も開催されました。まだまだこの事業は、成長過程です。

(3)のシリーズ恋文は、恋文をテーマとしたリーディング公演で、アーラコレクションシリーズの縮小バージョンとして始まりました。役者、演出家が稽古・本番を含めて5日間という短期間の可児滞在で作品を創り上げます。恋文という身近なテーマそして音楽家出演(ピアノ生演奏)によりこれまで演劇公演に来たことのない新たな演劇ファンの獲得をめざしています。恋文の題材は、当時の秋田県二ツ井町(合併後は能代市)が全国公募した恋文コンテストの手紙です。以下、館長エッセイの抜粋です。「「手紙」は良い思い付きだと膝を打ちました。そこで有名な作曲家や画家と恋人や愛人との往復書簡を読み漁りましたが、翻訳が悪いせいか心に響いてきません。そんなときに手にしたのが、秋田県二ツ井町(現能代市)が主催した「恋文コンテスト」の全国公募で集まった「普通の人々」の筆になる恋文でした。2分から2分半程度の恋文で、短いだけに思いが凝縮されており、リーディング公演を未体験の可児市民も退屈せずに聞ける、と思いました。恋文を繋ぐブリッジに何か楽器の生演奏を挟めば、内容にとても心が動くだけに一級の舞台作品になると確信しました。」 衛館長のこうした発想から題材が決まっていきました。今年は、5回目の公演となります。10月1日~5日にかけて稽古、本番がおこなわれました。出演は、歌手の石川さゆりさん、文学座俳優の渡辺徹さんでした。さすがに有名なお二人です。チケットは早々とソールドアウトとなっていました。お二人の朗読はまさに“心に染み入る”という感じで、お客様を魅了していました。約75分の公演の後、この公演や可児市の印象についての話など公演中とはまた違った和やかな雰囲気の中、館長とお二人のアフタートークも行われました。特に、歌手である石川さゆりさんは今回のような公演ははじめてで、新しい挑戦だったようです。公演後の帰路で恋文の概要や可児市滞在での思い出などを10月5日付けのブログに綴ってくださいました。

(4)のアーラコレクションシリーズは、衛館長がアーラに就任した翌年平成20年からはじまりました。あえて過去の優れた戯曲に焦点を当て、リメイクして作品を再評価するプロジェクトということで、キャスト・スタッフに1ヶ月半可児に滞在していただいて演劇製作し、可児市・東京・全国で公演して発信していくというかたちで始まりました。いまではアーラの看板事業となっています。7作目の今年は、新しい試みということで、初めて翻訳劇に挑戦します。また、これも初めてですが東京で稽古していただいて製作し、東京公演を経て可児市へ持ってくるという形で進めるということになりました。この事業は、まさに現在進行中でして、10月2日に東京のスタジオで稽古の初顔合わせがあって、11月1日から10日の東京公演、地方公演をへて11月20日から24日に可児公演を行う予定です。今回の作品は、日本を代表する名優である渡辺美佐子さんと平幹二朗さんの二人芝居で、人生の黄昏を迎えるすべてのひとへ贈る心に響くラブロマンスです。稽古場初顔合わせに参加しましたが、さすが二大名優、お二人とも相当事前に準備をしておられ、すでに台本の一部は頭に入っているという感じでした。年齢は二人合わせて160歳を超えています。素人の私にとっては“すごい!”としか言いようがありませんでした。出演するのはお二人ですが、この作品を作り上げるためのスタッフは相当の人数になります。演出、翻訳、演出助手、美術、音響、作曲、振付、衣裳、舞台監督、演出部、制作等々大勢のスタッフの力を結集して作品が出来上がっていきます。稽古場初顔合わせには総勢約20名が参加していました。素晴らしい作品が出来上がることを願わずにはいられません。今年は、東京での稽古ということで、稽古場でのケータリング補助等はお願いできませんが、公演期間中のスタッフ補助、広報宣伝協力、関連企画の運営などをお願いする「黄昏にロマンス市民サポーター」を例年と同様に募集しました。多くの皆さんに可児から全国へ発信する舞台製作を一緒に盛り上げてもらいたいと思います。

最期に(5)の市民ミュージカル「君といた夏~スタンドバイミー可児~」についてです。アーラコレクションシリーズと同じく平成20年度から毎年 大型市民参加プロジェクトを実施しています。これは3年毎に、1年目はミュージカル、2年目はコンテンポラリーダンス、3年目は演劇という流れをとっていて、毎回100名程の市民が参加しています。製作過程において多くの市民が関わり作品を創りあげていくことで、参加者同士の絆を育み、地域への愛着を深めていただくことを目的としています。また、プロのスタッフ・キャストの方々と共同・共演することにより、市民の創作意識を高め、地域の活性化を図る一助にしていきたいと考えています。今年度のアーラの大型市民参加事業は「君といた夏~スタンドバイミー可児~」です。永遠の青春作「スタンドバイミー」をモチーフに昭和49年(長嶋茂雄が引退し、中日ドラゴンズが20年ぶりのペナント制覇を果たした年)の「あの頃のわが町を舞台に誰もが経験したキラキラ輝いていた少年時代」を描いていきます。9月上旬まで出演者の公募をしたところ小学校1年生から60歳代の大人まで100余名の皆さんが応募してくれました。9月26日から28日に実施した配役のオーディションには、個性豊かな子どもたちがいっぱい参加してくれました。10月25日から稽古開始で、本番は3月7日(土)・8日(日)です。いよいよ今年も5ヵ月間にわたる稽古が始まります。また素晴らしい作品が完成することを期待したいと思います。

冒頭にも書いた通り、アーラが文化庁から特別支援施設に採択された理由の大きな柱のひとつが、紹介した自主企画・製作公演です。これらに加えて多くのワークショップやアウトリーチを行う「アーラまち元気プロジェクト」をもう一つの柱としたアーラの意欲的な事業展開が評価され、採択につながったと思われます。先般実施したアーラ主催のコンサート公演に北陸から来られた男性の方がアンケートの感想に「すごく音楽、文化に力を入れている市のとりくみがすごい。可児市の人がうらやましい。」と書いていただきました。アーラコレクションシリーズや森山威男ジャズナイトを全国に発信していく創造発信事業の目的は、文化庁が掲げる事業目的と同じ部分もありますが、可児市という町にとっては、こういう想いを持ってくれる人を全国に創り出すことも目的の一つではないかと思います。市民の皆さんに可児に住み続けたいなと感じてもらえて、市外の人には可児はうらやましいな、住んでみたいなと思ってもらえるようなまちづくりの一端をアーラが担えるようにこれからも前向きな取り組みができたらと考えます。



 

このページの上部へ